月霜の樹林

La bave du crapaud n'atteint pas la blanche colombe...

【書評】黄昏の砂洲に立ちて  

 暦の上では秋の初めですが、エル・ニーニョによる冷夏予想が一変し今年も地獄の釜の如き猛暑が続いております。そこで本日はお盆の中日と言う事で、いずれは誰もが行き着くであろう常世に纏わる作品を紹介したいと思います。
 
 □船出の歌を歌うという事□ (ユメピリカ様)/対象Lv.無し/本体ver1.50以上

 気が付けば闇夜を往く船に独り乗り組んでいた冒険者。突然の事態に何も思い出せず、恐怖と孤独に苛まれている処に『影』を持たぬ不思議な少女が顕れます。この光無き世界からの脱出と引き換えに請け負ったのは船に囚われた乗員達の解放。人魂の仄かな灯りを頼りに冒険者の孤軍奮闘が始まります。
 別の方の作品(※1)に着想を得たと言う、ユメピリカ様の『船出の歌を歌うという事』はオリジナルの作品が持つ良さを損なわずに上手くCardWirthの世界観に溶け込ませた珠玉の掌編です。心残りに縛られ行き先を見失った死者を乗せ、迷妄の象徴である無明を彷徨う船の描写は恐ろしさよりも深い哀しみを感じさせますし、最後に冒険者が力の限り『船出の歌』(鎮魂歌)を謳う場面ではプレイヤーの持つ死生観がそのまま御霊への手向けとなる事でしょう。また英国文学に明るい方ならば、かの桂冠詩人アルフレッド・テニソンの辞世の詩『砂洲を越えて』(原題:Crossing the Bar)を想起する事かと存じます。
 冒険者の祷りを胸に無明の砂洲を越えた彼等が、願わくば無事に魂の故郷へと到らん事を。

 ※入手先:夏のだいたい100kBシナリオ祭り夢見る竜亭内)


 □祈りしもの□(SHIMO様)/対象Lv.3-5

 「貴方の『祈り』を貸して欲しい」と言う聖北教会からの奇妙な依頼。首をかしげながら教会を訪れた冒険者達は、依頼主の司祭から、50年前に大国間の勢力争いに巻き込まれ一人残らず虐殺された犠牲者達の悲しみを癒し『力づく』ではなく『真摯な慈悲』の込められた『祈り』のみで神の御許へと導くよう頼まれます。
 事件の真相を探る一行の前に立ちはだかる禍々しい化け物『レイス』。その魔力の根源が救われぬ人々の無念にある事を見抜いた冒険者達は、街のあちこちで苦しみや無念に囚われ彷徨う亡霊達を癒し霊魂の救済に奔走します。廃墟の町に巣食うレイスの正体とは?そして冒険者達の祷りは御霊に届くのでしょうか?
 作曲家としても名高いSHIMO(霜村)様の『祈りしもの』は数あるユーザ製シナリオの中でも群を抜いたクオリティを持ち、物語の構成力や完成度の高さはCW屈指と言っても過言ではありません。プレイヤーに対する配慮も非常に細やかで、重い内容であるにも関わらずほとんどストレスを感じません。
 また御本家(斎藤 洋様)の代表作である『賢者の選択』に関わる要素も透かし絵の様に巧みに織り込まれており、あの作品を取り上げた『後日談』的なシナリオの中でもこの作品は白眉と言えましょう。
 今年は戦後70年と言う節目であり、先の大戦についても様々な意見や評価が行われる様になりました。ですが、筆者にはこの作品をプレイする度に廃屋に流れる音櫃の無邪気な旋律が、戦争の惨さを、平和な日常を打ち砕かれた人々の哀しみを強く訴えている様な気がしてなりません。と同時に『どんなに罪深い者であっても恩寵を受け得る資格がある』と言う隠された主題に、製作者様の深い祷りが込められている様にも思わずには居られないのです。

 …合掌。

 ※入手先:my navy shoes(m.n.s様による代理公開)



 ※1 詳細は添付文書「02.概要と後書きというメッセージ.txt」参照。

category: *Review*

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