月霜の樹林

La bave du crapaud n'atteint pas la blanche colombe...

【書評】最近の作品から 3  

 書評を書くのも久し振りです。
 北海道を除いて梅雨入りした昨今、今回は鬱陶しい日常を一時忘れる様な、爽やかな余韻の残る作品をご紹介します。

 □ほしをわたるふね□  (サンガツ様)/対象Lv.無し/本体ver1.50以上

 まどろみの中、聞き慣れない音に目を覚ます冒険者。見渡せば其処は慣れ親しんだ宿の一室ではなく、古びた客車の一隅でした。様々な事情を抱える乗客を載せ、冒険者がこれまで見た事も無い乗り物は天空の見えざる路を走り続けます。煌く星々が待つ天空の彼方に、果たして冒険者は何を見出すのでしょうか…?
 シナリオ作成講座や素材・テンプレート配布等、cardwirth界隈で精力的に活動されているサンガツ様の「ほしをわたるふね」は、宮澤賢治の名作「銀河鉄道の夜」をモティーフにした、情景描写の美しい掌編です。夢と現実の狭間で黄泉路を駆ける列車に乗り合わせてしまった冒険者は同乗する死者達の想いを聴き、窓の外に広がる銀河や極光に目を奪われつつ彼らを見送る事になります。何処か荘厳な天空の旅路の中で、冒険者は一体何を思う事でしょうか?梅雨の晴れ間に夜空を眺めたくなる様な、作者様の穏やかさと優しさに溢れた作品です。

 ※入手先:公式Guild青空亭


 □君とゆく冒険□ ※張り紙は『薬草採取の護衛募集』 (ありじごく様)/対象Lv.5-6/対象人数:5人以上/本体ver1.28以上
 
 学都カルバチアから届いた一通の依頼。高山での植物採取の護衛を頼んで来たのはやや臆病ながらも生真面目な一人の学究者でした。必要に迫られて研究に必要な触媒を採取するべく、なけなしの勇気と財産を注ぎ込んだ依頼人は、初めて出会う冒険者達におっかなびっくりしつつ危険に満ちた霊峰へと旅立ちます。さて、その結末や如何に?
 シリアスからコメディまで多くの魅力的な作風を持つ、ありじごく様の「君とゆく冒険」は、初めて冒険者に依頼を出した研究者が高山での薬草採取を達成するまでの顛末を、依頼人と旅にも荒事にも慣れたベテラン冒険者達との視点を交互に織り交ぜながら「護衛依頼」と言う冒険者の日常の一コマを丁寧に描写した、良質のドキュメンタリーの様な作品です。
 中堅の冒険者に取っては良くある依頼の一つに過ぎないであろう護衛の依頼ですが、冒険とは無縁でひたすら研究に打ち込んでいた依頼人にとっては、その道行きは何もかも初めて尽くしの未知の経験。しかも体力に自信が無いにも関わらず高山へ登らなければならない切羽詰った事情を抱え、これまで接して来た事の無い、言わば「異業種」の人間との出会いは依頼人に取ってまさに衝撃の連続でしょうし、逆に言えば今までの狭い視野に捉われない新たな知見を見出す契機になるのかも知れません。艱難辛苦の果てに辿り着いた山頂で見上げた青空は、依頼人の記憶の中で鮮やかな輝きを放つ事でしょう。

 ※入手先:公式Guildありじごくの会心の一撃

 □宿の絵復元依頼□  (吹雪様)/対象Lv.無し/本体ver1.29以上

 蒸し暑さが増す或る日、宿の娘さんから内々に依頼を受ける冒険者達。それは破られたまま飾られている一枚の絵を父の日までに復元して欲しいと言うものでした。街中で偶然出会った偏屈な画家が問題の絵の描き手だと知り、絵の修復と完成を頼もうとする冒険者。しかし画家はその願いをにべもなく撥ね付けます。画家を頑なにさせる理由とは?果たして絵は完成するのでしょうか?
 重厚な長編シナリオを幾つも公開されている吹雪氏の「宿の絵復元依頼」は、別のユーザのイラストに着想を得て作られた、印象深い短編読み物です。若かりし頃の宿の主と亡き戦友との肖像を巡って宿の娘さんや冒険者達、そして老画家の思惑を交差させながら、冒険稼業に生きる者達に訪れるであろう運命と希望、そして決意とを「蒼」と言う色に託して描き出しています。
 父の日に手渡された、宿の主の大切な「想い出」。キャンバスに描かれているのは「冒険者」達の普遍の姿なのかも知れません。夏の始まりを告げる青空の様な、軽やかな余韻を残す作品です。

※入手先:公式Guild
 

category: *Review*

tb: --   cm: --